工藤晃(49)

ーその、写真としてこの写真をなんでこう選んだかっていうことを教えてください。

その写真じゃなくてさ、俺のこと一番思ってくれてる人がこの人なんだよ。だから、この人が大事なんだよ。俺も思ってるし、それだけ。


ーその、思っているというのはどういうところで感じたりするんですか。

いや、女作ればわかると思うけど、自分のために君と付き合うか。君が好きで付き合うか。ていうところだよね。
で、彼女は俺のことをすごく思ってくれておれと付き合ってるわけよ。そんだけ。
なんていうの、他人を思う気持ちって難しいでしょ。自分のことはさておいて、自分死んでも相手のこと思うって難しくない。で、彼女はそれを俺に対して思ってくれる。命がけでけんかするわけよ。なんでそこまで俺を責めるのっていうくらい、命かけて責めてくんのよ。自分死んでもいいのかなって思うくらい責めてくるんだよ。そんくらい命かけてんだよな。俺に対して。


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ーでも、それは工藤さんのことを思って。

だと思うよ。
だから俺が生きてこれてる。で、なんで俺がそれを大事に生きてこれるかって言えば、ものすごい15,6から辛い経験してんだよ。もう誰にも言えないくらいもう辛い経験して、なんで俺が生きてんのかなって思うくらい辛い経験して。
で、今の状況までこれたっていうのは一緒にただ付き合ってくれたから。まあそれ。それだけでもう一番大事。


ー同じように自分も奥さんのことを思う。

俺そんな思ってないんだけど。


ーいつから出会って一緒に。

出会ったの。出会ったのはある程度俺の生活が落ち着いて、俺東京に勉強に行ったんだよ。で、その時、知り合って。それが25の時か。それからずっと一緒だよ。
もう20年、24年。毎日っていうかまあ波の時もあるけど、嵐もすごいよ。


ーそういう24年間がこう、積み重なってというか、過ごしてきて、やっぱり自分にとって一番。

嵐乗り越えた、空腹乗り越えたのはやっぱりそういう一緒にいた、いてくれる人がいたから。俺1人だったら、逆にもっと楽に逃げてるかな。今の状況はないと思う。


ーもっと苦しい生活をしてたかもしれない。

そうだと思う。


ー楽をして、で、結局苦しい。

そうそうそう。


ーでも一緒にいたから。

から、今の生活がある。


ーなんかそういうターニングポイントみたいなところって具体的にあったりしますか。

ないな。そんなきれいごとじゃなくて積み重ねで。まああるっちゃあるけどさ。あれは地獄だよ。あるっちゃあるけど。それに耐えられるかどうかはね、また別の問題だよな。


ーそれはいい思い出っていうか、こう、いい思い出って言ったらそれはきれいごとかもしれないですけど。

よくないけど、けど、やっぱり、そういう、心臓止まるくらいの坂を越えてさ、で、その坂いい思い出だかっていうともう苦しいだけなんだよな。ただただ苦しいだけなんだけど、でもそのおかげで今やっとこう普通の心拍数を保てるっていうかな。


ーそれは奥さんのおかげだ、奥さんと一緒にいた24年間のおかげだっていう。

だけじゃない。それはやっぱりいろいろ社会の出会う周りの人のおかげもあるよね。2人だけだとまただめだし。
映画のライフオブパイには、あの、猿も出ればイノシシも出ればなんか色んな動物出るんだよ。うまいなって、とにかくうまいんだよなやり方が。もう達観した人が書いた原作だなって感じが。


ー自分の人生と似たようなもの感じたってことですかその映画は。

うん、まあ俺は自分にかぶしたけど、人みんなそうなんじゃないかなと思ったけど。
感じない人っていうかそういう道を通らない人もいるしね。まあ自分、そうだな、自分にかぶせたな。


ーその荒波という。

トラと。


ートラが奥さんですか、トラが自分なんですか。

トラは奥さんよ。ハリネズミのジレンマって知ってる。
ハリネズミってオスとメスってさ寒いから寄り添いたいんだけど、針刺さるから寄り添えないんだよ。で、それをジレンマって言うんだよね。そんな感じ。
トラと少年も寄り添いたいんだけど、寄り添ったらトラに食われるから寄り添えない。だからっていって離れると生きていけない。それが人なんだよ。
今の戦争もそう。戦争なくなったら人類多分滅亡するんだよ。どっかで戦争してて、その戦争があるから保ってるんだよね。バランスとってんだよ。そのハリネズミの針と一緒だと思う。


ーっていうのが、工藤さんと奥さんの関係で感じると。むずかしいなあ。

そうそうそう。難しいよ。俺もだって最近だもん。
感じるの。トラの映画だって去年あたりでしょ。
あれもああすごいなって。
感じた。うまいなこの人っていう。


ー自分もこの人生に、この人生、この映画と似てるなっていうか一緒だな。

自分の感覚、生きてきた感覚ね。で、仕事の内容っていうのは俺にとってどうでもいいんだよ。
大事なのはやっぱり、生きてて家族養って、で、自分の立場っていう仕事で、社員にちゃんとしごと与えてやれるかってリストラしないで、みんなに仕事を与えてやれるかっていうのが俺の仕事だから。
だから、どんないい料理とか素晴らしい料理とかっていのはきれいごと、俺の趣味でしかなくて。他の社員関係ないんだよな。俺の自己満足の世界。
君がなんか開発して、ずーっと残るもの作りたいっていう自己満足の世界と同じ。
だけど、生きるための仕事っていうのはちょっと違う。それがあのトラの映画見ればわかる。
わかったらすごいよ。

そのうちでもわかったらすごいよ。だって俺自分で経験積み重ねて感じてきてることであって、本呼んで勉強したことまた違うジャンルだから、俺の感性の世界だから。

それわかるようになるには、3回くらい死に直面しないとだめだな。で、自分は死んでもいいやって思えるんだよね。俺いつでも死んでもいいんだよ。
どうってことないんだよ、自分の死が。ただいやなのが、女房先に死んで残されたとき。の方が全然辛いっていうか。


ーそれだけ自分にとって大切な人な。

うん、不安ていうか今まで築き上げてきたものが一気に全部崩れるから、もっかいゼロに戻るんだよね。ゼロの自分に。
で、ゼロの自分になったときすごいこう、寂しいなっていう寂しさが残るっていうか。生きるのはなんともないんだよ。その寂しさが受け入れられる寂しさかなっていう。
どうかな。


ー同じこと、でも感じてるわけではないですか。

相手が。
いや、相手は子どもが一番だろうから。で、俺の片思いなんだよ。
でもそうだよ。ほら、海で溺れてるとお母さんは子どもを助ける。お父さんは奥さんを助けるんだよな。で、結局そのおっかけこでな、そういう風になるんだよ。子ども生まれた時はものすごく寂しさ感じたもん。変なんだけどね、やきもちじゃないんだけど。女房の気持ちが俺から離れて子どもにいったっていうのはすごーいさみしくてさ。お父さんに聞いてみな。僕が生まれたとき寂しかったって聞いてみな。


ーどうなんですかね。長男だし聞いてみたいと思います。

それ大事なことだよ。お前なんでそんなことわかるんだって。
なんもなきゃさ、気づかない。ずーっと生活してる。荒波がいっぱいきたらさ、気づくよ。俺は気づくチャンスがいっぱいあったかな。たまたま気づいただけで。安定した生活してたらね、そういう気持ちあっても気づいてないかもしんないし。それはわかんない。

だって生まれたときさ、お母さんの気持ちが100%お父さんにきてたわけじゃん。
生まれるまでは。で、生まれた瞬間そっちいっちゃうじゃん。で、いくら声かけても5%もこっちに動くかなあ。生まれたときっていうのは。だけど自分の気持ちも子どもに向いてっから、ある程度こう緩和されてさ、いいんだけど。
やっぱり時間経って子ども大きくなっても、やっぱりお母さんの気持ちっていうのはそっちいってんだよね。それはお父さんはそれ以降寂しさ感じてると思うよ。聞いたお父さんに。一番大切なもの。


ーこれからですね。
今度自分の、夢とか、なんのためにこう生きてる、今働いてるか生きてるか、目標にしてるかってところを聞きたいんですけど。

俺。最近ねえな。最近。俺、秋田でとりあえず一番になろうと思った、料理で。なんかなった気するんだよね。
あの周りの評価で。店、医者と弁護士ばっかりのお客さんになっちゃってさ。すごい高級店になっちゃって。で、予約が取れないレストランになっちゃったわけよ。
そしたら、もういんだよね。で、いっつも同じお客さんばっかりで。俺この人たちのために料理作ってるわけじゃないんだよね。うん。
ただやりたいこと、やりたいことあって料理を作った。けど、こう労働に対する思いを形にした。俺は料理に対する形にしただけであって。なんかおんなじ人ばっかり来るのがすごい嫌で。金持ちしかこない。

それで、今レストランね、週3日しか営業しないことにしたんだよ。嫌で嫌で。昼は、もう弁当はすごい速いわけよ。全部医者ばっかり。薬屋がうちに調達するんだけど。
なんか、やりたいことじゃなくなっちゃったわけ。借金あるから、商売のために、従業員いるから、従業員の仕事守るために、ていう風に変わっちゃって。仕事してて。
自分の本当のやりたいことっていうのが全然。まず一個達成してるのが、仙台とか盛岡からもお客さんくるんだよ。予約してわざわざ。
で、仙台にもないわ盛岡にもないわって言うんだけど、どうだっていいんだよそんなことは。ただ自分がやれること、やりたいこと、やれることを精一杯やっただけであって。
で、今一番やりたいことはね、すごいくだらないことをやりたい。くだらないことを。ゆっくり休んで、自由な時間、へらへらしていたいの普通に。ていうのがやりたいこと。


ーそれにいくために、その借金返したり、働いたり。

別にそれは目指してない。借金返すの当然なことであって。まあ義務だよなあ。
なにすりゃいいんだろうか。


ーその働いてるっていうのは奥さんのためでもあるんですか。

奥さんのためじゃないな。自分のためだな。自分が家族を守るっていうのは当然のことじゃん。それ家族のためじゃなくて、自分が家族を守るっていう欲求を満たさせるために一生懸命やってるんであって、家族のためではない。
ただ子どものために今、子どもを苦労させてる。高いんだよ。

それを子どもの苦労を買ってやってる。子どものために。でも、もともとは子どもためにやってる自分の欲求を満たしてるんだよね。
結局は最後自分のためっていう。自分の欲求に返るところなんだけど。まあ全てがそうだよな。最後は最後、自分の欲求に返るんだからね。


ーそれは自然と生まれた欲求。

そうですね。自分のやりたいことっちゅうのは。
あれ知ってるよねあれ。太平洋戦争の時に日本人で捕虜なって、ロシアのね。床屋やって生計っていうか生きてきて。奥さんいたんだよな日本人の奥さん。なんていう話だっけ、実話なんだけど。50年ぶりに日本に帰って来て、その奥さんと再会する話知ってる。
で、ロシアで、ロシア人と結婚するんだよ。釈放されて。
だけど、帰国の許可おりなくて。ずっと結婚生活をロシアでしてて。で、それで奥さんが頑張って、ロシア人の奥さんが。この人返してやろうって日本に。
そしたら日本人の奥さんが、70か80で生きて待ってたんだよね。で、50年ぶりに再会して抱き合ってキスするんだよ。その80くらいのじいさんと。もう涙止まらなくてさ。
結局人の帰るところっていうのはそういうところで。生きる過程、仕事ってあるの。
で、自分のやりたい趣味的な部分ある。でも、本当に心が返るところっていうのは愛する人と一緒にいれること。それだけだと思う。で、俺がやりたいことがないっていうのは、とりあえず今女房と一緒にいるっていうことで満たされてる。


ーそれを続けたい。

じゃないかな。うん。そのためには自分が生きてく中で色んなことあるよ。色んなことあるけど、やりたいこともあるよ、バイクも乗りたい、自転車も乗りたい。色んなことあるけど、結局はどうだっていいことで、最後の最後に残るもの、その写真の、一番大切なもの。まあそういうことなんだろうな。

自分のさ、いやいろんなものを持ってるじゃん。全部捨てていくんだよ、最後になに残る。一番最後に残るもの。で、俺仕事捨てて、家捨てて、全部捨てて、捨てて捨てて捨てて。車もバイクも全部捨てて。子ども、捨てれねえな。子どもと女房と家族は。自分では捨てれねえ、家族は。
でも最後の最後何が残るかって言うんだよなあ。で、家族捨てるまえに、俺自分の命捨てると思うんだよな。俺捨てれないもん子どもも女房も。
で、女房と子どもは残って、難しいとこだよなあ。


ー自分を捨てちゃったら捨てれないですもんね、そのあと。

捨てれないもんなあ。だけど子どもは生命力あるから、自分でまず生きていけと。ちなみに他の20何人が、何を一番大事って。


ーいろんなものありますよ。
人生ってもう本当にあっという間に過ぎちゃうから自分の好きなことやってないともったいないなって感じた瞬間だ。その写真について言ってました。

もったいないっていい言葉だよなあ。もったいないんだよね。
でもそのもったいないってさ、すげえ深いんだよ、意味が。なんて言うんだろうな。
ストレートのもったいないとちょっと違うんだよ。その、ぎりぎりの経験をした人のもったいないと、ただもったいないな。残すのもったいないなっていうのと全然この深さがちがくて。
まあ一回きりの人生じゃん。楽しまないともったいないじゃんって言うくらい、その、その人生が全部そこに集約されると思うよ。その言葉って。


ーでも工藤さんの場合は全てこの写真ていうか、この奥さんに集約されるんですかね。自分の欲求ていうのが。

自分の欲求は入ってねえや。ちょっとまたちょっと違う。欲求は。
欲求を押し殺してるんだよな。あの、欲求、欲望ていうのは叶えられない。うーん。叶えるために、努力するわけじゃん。
でも、女房と一緒にいることに努力するわけじゃん。でも、女房といることに関してその欲求欲望というのはまた別物の世界で。自分が生かされる。
この世の中で生きていくために、すごいこう、なんて言うんだろ、俺の底力になってくれるっていうか、欲求欲望よりもっともっとこう基本的なこと。欲求欲望て言うのは贅沢な話なんだよ。

まず、とりあえず生きていくっていう原点、を満たすために必要な人だな。そんなような気がするな。で、この20何年間一緒に頑張ってきて、今の仕事がある程度安定して生きてはいける。
で、そういう時彼女がいなくなったら、どんだけ寂しいんだろうって。
もう生きるイコール彼女だったわけ。
それがなくなった時、朝起きると心臓動いてっから目覚ますじゃん。その時横にいなかったらどんだけ寂しいんだろうなって思うんだよな。



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